岡本太郎氏の思い出と名言の響き

私は落ち込んだ時、迷った時、岐路に立った時、危機になった時などに、いくつかの出会いがありました。それは人との出会いだけでなく、言葉、本、芸術、音楽、旅や思わぬ体験の出会いでした。そしてその出会によって救われたり、前に進む勇気をもらったり、決断するパワーをもらったりしてきました。

目次

「人間、岡本太郎」、芸術として生きる岡本太郎氏の思い出

東京都美術館で、今年(2022年)12月28日まで岡本太郎展が開催されています。どうしても観に行きたくて、クリスマスイブに予約をとり、鑑賞してきました。なぜ行きたかったのかというと、「岡本太郎展」に青春時代の思い出があり、懐かしく感じたからです。

岡本太朗展パンフレット

学生時代のアルバイトでの岡本太郎展の思い出

私が大学院の学生だった時のことです。本物の芸術に触れたくて、ある美術館でアルバイトをしたことがあります。
そのアルバイト先の美術館で、「岡本太郎展」が開催されました。
開催前日にお客様がいない閑散とした会場に、作品が並べられたのを見た時、すべての作品が強烈なインパクトを持ち、鮮烈な色彩で、個性の強い作品同志が共鳴して、会場がとても狭く息苦しく感じたのを覚えています。

しかし、開催期間中に何度も作品を見ているうちに、心動かされ、元気になるパワーを感じるようになりました。岡本太郎氏の出版物も読む機会があり、岡本氏の物の見方・考え方や芸術家としての生き方を知ったことで、作品の見方が変わり、私の心に大きく影響を与えました。また、岡本太郎氏にお会いしてお話を伺う機会が偶然あり、作品の意図や制作に対する哲学が理解できたことも大きかったように思います。

岡本太郎氏のイメージは、お会いした時に払拭された

展覧会開催中に、岡本太郎氏は岡本敏子さんと共に会場を訪れられました。今は記憶は定かではないのですが、訪問された日はお客様が誰もいらっしゃらなかったので、閉館してからか休館日だったのかと思います。

岡本太郎氏にお会いするまでは、岡本氏は、鋭い眼差しで目を大きく見開き、両手で独特なポーズをし、テンションを高くして「芸術は爆発だ!」と言う印象でした。また、テレビでは会話の内容がわかりにくく、風変わりで少し滑稽な方だというイメージを持っていました。
しかし、実際の岡本太郎氏にお会いし、全員でお話を伺うことができた時に、自分の持っているイメージは、すべてメディアで作られたものではないかと思いました。その日、岡本太郎氏は、パリ時代の話や自分の作品のこと、芸術や人生に対する自分の考え方を熱く語られ、純粋で無邪気な哲学者のような方という印象を持ちました。お話の内容は、スタッフ全員が感銘したことを覚えています。

印象的だったこと。「自身を芸術として表現する岡本太郎」に変身

お二人がお帰りになる前に、記念に写真を撮ろうということになり、岡本太郎氏を中心に館長はじめすべてのスタッフが2列に整列して写真を撮りました。

その写真撮影時のことを、鮮明に覚えており、今でも忘れることができないのです。
岡本太郎氏は、カメラが構えられる前は、真ん中で普通に真面目な顔をして立っておられました。しかし、カメラが構えられた途端、いつもの目を大きく開いて両手を構えるポーズを即座にとられ、そのポーズで微動だもされないのです。まさに芸術として生きる「岡本太郎」に変身されたのです。
でもその変身ぶりを見て、誰も笑いませんでした。なぜかというと、岡本太郎氏の作品を美術館で何度も見、著作された本も読み、考え方や作品の背景になる岡本氏の哲学を知ったうえで実際にお話を伺ったので、みんなが「人間、岡本太郎」を理解できたのだと思います。
人間が本職だと自称されている岡本太郎氏は、自分の作品に囲まれた芸術空間をバックにし、写真の中で「生き方こそが芸術だ」と主張し、「自分の生き様、人間としての自分を芸術として表現している」のだと感じました。なぜか全く違和感がなく、テレビで見るような滑稽さもなかったのです。

心に響いた「痛ましき腕」と「逃げない、はればれと立ち向かう」という名言

岡本太郎氏はパリ大学で哲学、心理学などを学んだこともあり、心に響く数々の名言をたくさん残しています。

自分に気づき、私を変えた岡本太郎氏の作品と名言

私は当時大学院には在籍していましたが、昭和時代の当時はまだまだ女性であることで先が見えない状況になっており、空回りして思ったようにうまくいかないこともあり、劣等感すら感じ、心の中を人に見せない状態になっていました。学ぶのは好きでも、全く将来がわからなく見えなくなり、悩みのトンネルから抜け出せなくなっていた青春時代でした。

アルバイトをしていた美術館で、心が引かれたのは「痛ましき腕」でした。その作品に、岡本太郎の名言ともなった「逃げない、はればれと立ち向かう、それがぼくのモットーだ。」が、表現されています。その作品と言葉が、当時、悩んでいた私の心にスッーと入ってきました。

「痛ましき腕」に心惹かれる

「痛ましき腕」は岡本太郎が、パリ時代の25歳の時に描いた作品で、モデルは岡本氏自身だということです。パリの異邦人としての切なさや、芸術表現への自信や不安、青春の孤独や苦悩が表現されています。

黒髪に真紅の血のような大きなリボンをした少女の表情は見えません。大きなリボンと見えない顔ゆえに、少女の表情や感情が心の中に浮かび上がります。
こぶしを硬く握りしめ、肩をいからせて悲しみで泣きじゃくっているかのように見える少女の腕は、赤く痛々しく肌が剥けており、切り裂かれた傷口に痛々しく巻きついた黒い紐を、こぶしでしっかり握りしめています。この真紅の大きなリボンを付けた顔の見えない少女が痛みに耐え、こぶしを握り傷に巻き付いた黒い紐を持つ姿は、孤独、苦しみ、痛みや不安から逃げださず、そのまま受け入れて正面から立ち向かう力強い意志の表れを感じさせる作品です。

「痛ましき腕」(岡本太郎作)

岡本太郎氏の

「逃げない、はればれと立ち向かう、それがぼくのモットーだ。」

は、「痛ましき腕」の中に表現されており、生命力や自分の芸術に立ち向かう勇気を感じることが出来ました。
この作品を何度もみて、岡本太郎氏の実際のお話を伺うことにより、私も今の不安や苦悩に負けず、もう一度勇気をもってチャレンジしようと思ったのです。
今回の岡本太郎展で「痛ましき腕」を再度鑑賞し、青春時代の不安やせつなさと、心が軽くなった時のことを懐かしく想い出しました。

岡本太郎氏の名言は、現在でも心に響く言葉の哲学

私は、今も様々なことがあり、考え悩むときがあります。その時には、岡本太郎氏の言葉を綴った本を読むときがあります。

人生はキミ自身が決意し、貫くしかないんだよ。

自分自身を責めることで慰め、ごまかしている人が、意外に多いんだよ。

人生に命を賭けていないんだ。だから、とかくただの傍観者になってしまう

いのちをかけて運命と対決するのだ。その時、切実にぶつかるのは己自身だ。己が最大の味方であり、また敵なんだから。

自分を責めることで逃げていることもあるが、それよりも前に進むしかない。困難があっても、自分がやろうとしたことは自分で決意し、責任をとってやり抜くしかない。覚悟を持ってやらなくてはいけない。と自分にはっぱをかけることがあります。

「人間にとって成功とはいったいなんだろう。
結局のところ、自分の夢に向かって自分がどれだけ挑んだか、努力したかどうか、ではないだろうか。」

「自分を実際そうである以上に見たがったり、また見せようとしたり、あるいは逆に、実力以下に感じて卑屈になってみたり、また自己防衛本能から安全なカラの中にはいって身をまもるために、わざと自分を低く見せようとすること、そこから堕落していくんだよ。」

岡本太郎の言葉は、自分の心に語りかけてくれます。厳しい言葉も多いですが、その言葉は「真剣に生きる」ための勇気をくれるのです。他にもたくさんの名言があり、「本職は人間、岡本太郎」が何者だったのかが理解できるのです。
そして、岡本太郎の名言を知ることにより、作品を観る眼も変わるのではないかと思います。

追記:社会や戦争に対峙する作品は、今に通じるものがある

岡本太郎氏の作品には、社会や戦争に対するテーマのものが多くみられます。

対極主義は、岡本太郎氏の本質の理念

社会の問題を扱う作品では、対立する二つの要素をそのまま共存させる対極主義で表現されているものが有名です。
対極主義は、岡本太郎氏の本質を表しており、常識にとらわれず、常識の対極となる作品や主張を繰り返す岡本氏の生き様だと感じます。

「重工業」は不協和音、色の対比がぶつかり合う

「重工業」という対極主義の作品は、緑のネギ(農業・有機物)と赤い歯車(工業・無機物)の対立する要素と色を用いて表現されています。
抽象と具象、静と動、愛憎と美醜などの相反する(対極する)ものが社会に強制しているぶつかり合いの状況を、1枚のキャンバスに集結させ、猛烈なエネルギーを発する作品が、強烈なインパクトを感じさせます。

「重工業」(岡本太郎作)
「明日の神話」下絵の一部(岡本太郎作)


その他にも第五福竜丸(夢の島公園に展示)の核の悲劇をテーマにした「明日の神話」の下絵は、悲劇に負けないで乗り越える力強さを表しています。現在、本物の巨大な壁画は、渋谷マークシティーの連絡通路内に恒久設置されています。

岡本太郎氏の名言や作品は、現在においても「新しくて夢中になれる」魅力的なものがあり、今に生きる人々の心にも共鳴するパワーがあります。素直になって作品を観ることで、また新しい発見があります。
川崎に岡本太郎美術館があるので、心が沈んだ時に訪れてパワーをもらいたいと思っています。

太陽の塔 1/ 50
(岡本太郎作)
雷神 未完成(岡本太郎作)
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